東日本大震災は有権者の政策選好を変えたのか

斉藤 菜々子
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第4(2023): pp.75-91.

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要約

2011年に発生した東日本大震災は東北地方、そして日本全国に甚大な被害をもたらした。災害が発生すると市民の行動が変化するという知見は多いものの、災害が政治的態度に与える影響については用いるデータや分析デザインによって異なる結論が導かれている。そこで本稿では、2009年、2012年、2014年の東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同調査の有権者調査と東日本大震災の被害データを用いて、東日本大震災が有権者の政策選好に与えた影響を明らかにする。有権者は震災の被害や社会状況の変化によって政策選好を変化させることを理論的に考察した上で、被災者は震災後どのように政策選好を変化させたのか検証した。分析結果から、被災者は震災後リベラルな方向に政策選好を変化させたこと、政策選好の変化は短期的である可能性が高いことが明らかになった。このことから、一般的な理解とは異なり、震災は対外脅威認識を高めて社会を不安定化させるというよりは、有権者の協調行動を促すものと理解される。