原子力発電利用の規定要因 ―気候変動政策と再生可能エネルギー政策との関係から―

蓮沼 介永
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第3(2022): pp.55-76.

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要約

気候変動への対応が強く求められている現在、各国のエネルギー転換部門は、二酸化炭素排出量を削減しながら、電力の安定供給を実現しなければならないという難題に直面している。近年では、原子力がこの二点を両立する有用な電源として国際的に認められつつあるが、福島第一原発事故以降、日本ではいくつもの原子炉が運転停止を余儀なくされている。これらの原子炉を再稼働させる必要性を議論する上で、原子力利用を促進もしくは阻害する要因を今一度明らかにする必要があるだろう。本稿では、1995年から2012年までの38か国の気候変動政策と再生可能エネルギー政策に関するパネルデータを構築した上で、気候変動に関連する政策が国全体の原子力利用に与える影響を検証した。分析結果からは、気候変動対策としては、原子力よりも再生可能エネルギーがカーボンフリー電源として利用されやすいが、エネルギー需要が高まっている場合は、原子力利用が促進されるという代替関係が明らかになった。また、原子力利用国に限定した分析結果を基に、日本の現状から予測される原子力利用率をシミュレーションしたところ、分析期間において、日本は予測よりも原子力利用の比重が小さい電源構成となっていることが示唆された。原子力利用の有用性を再検討する余地があるかもしれない。