労働流動性が企業の教育訓練投資に与える影響 ―企業・業界の労働流動性に基づくマルチレベル分析―

伊藤 瑞希
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第3(2022): pp.25-36.

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要約

日本企業の教育訓練投資の不足が指摘されており、その一因として、教育訓練投資が離職を促進してしまうことに対する懸念が挙げられる。既存研究では、企業は人材の流入と流出に対して教育訓練投資が必要になる反面、一般的訓練は人材流出を促すという逆説的な関係が示されている。しかし、企業特殊的訓練に投資を限定する以外にこの問題を解決する方法については十分な議論がなされていない。そこで本稿では、2012年・2017年・2022年の「CSR企業総覧」および「CSR企業総覧雇用・人材活用編」の企業別のデータを用い、業界の労働流動性が企業の教育訓練投資に与える影響を検証した。結果からは、業界の労働流動性が高いほど企業が教育訓練投資を増加させること、また業界の労働流動性が高い場合には中途採用に依存する企業で教育訓練投資が増加するが、労働流動性が低い場合には、むしろ教育訓練投資を減少させることが明らかになった。外部からの人員補充が容易な状況では、企業は教育訓練投資を活発にさせることから、解雇規制の緩和等により業界の労働流動性を向上させることが日本企業の教育訓練投資不足の解消に重要であると考えられる。