キャッシュレス決済の普及が地域経済に与える影響―ポイント還元事業における登録加盟店数の変化の事例から―

酒井 日菜里
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第4(2023): pp.127-137.

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要約

現在、キャッシュレス決済への注目度が高まっており、日本国内でも普及が進んでいる。しかし、どのような決済手段がどれほどの経済効果を与えるのかを分析した国内の研究は限られている。そこで本稿では、経済産業省が公表している「ポイント還元事業における登録加盟店数」のデータを用い、業種を小売業に絞ったうえで、キャッシュレスの普及が実際にどれほどの経済効果をもたらしたのか、また、最も経済効果をもたらした決済手段は何であるのかを市区町村レベルで分析した。分析の結果、ポイント還元事業の加盟店数、特にQRコード利用可能店数の増加が小売業売上額の増加と正の関係にあることが明らかとなった。この結果は、国の事業による政策的なキャッシュレス決済の普及であっても、小売業の売上額を増加させる効果があったことを示すものである。キャッシュレス化は実店舗における売上額の増加、ひいては日本の経済成長につながる可能性がある。今後もポイント還元事業や専用端末の導入支援などを行い、国が先導してキャッシュレス化の推進を行う意義は十分にあると考えられる。また、キャッシュレス決済の普及が売上額を増加させるという店舗側のメリットを明確に示して周知することで、さらなる普及を推し進めることが可能になるかもしれない。