政府公共調達の電子化が汚職リスクに与える影響

下吹越 アナ
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第5(2024): pp.1-16.

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要約

本稿は、政府公共調達の電子化が汚職リスクに与える影響を実証的に分析したものである。公共調達は世界のGDPの約5分の1を占める重要な経済活動であるが、その規模の大きさと行政担当者の裁量性の高さから、汚職のリスクが特に懸念される分野である。近年、多くの国で導入が進められている電子調達システムは、調達プロセスの透明性と効率性を向上させることで、汚職抑制に寄与することが期待されている。本稿では、「GTI Global Public Procurement Database」に収録された、2006年から2021年までの18カ国における政府調達契約の個票データを用い、電子調達の導入効果を検証した。特に、電子調達の効果が各国の政府機関の質によってどのように異なるかに注目し分析を行った結果、電子調達の導入は汚職リスクを有意に低下させること、そしてその効果は政府機関の質が相対的に低い国においてより大きいことが明らかとなった。さらに、この結果の妥当性を検証するため、分析対象国であるケニアと日本の政府関係機関における事例分析を行った。両事例から、電子調達システムの導入が透明性向上や競争性改善といった効果をもたらす一方で、制度面・技術面での様々な実務的課題が存在することが判明した。これらの分析結果は、電子調達システムが特に制度的基盤が脆弱な国において、効果的なツールとして機能する可能性を示すとともに、その効果を最大限に発揮するためには、各国の状況に応じた段階的な導入アプローチと適切な支援体制の構築が不可欠であることを示唆している。