国の環境政策と企業の環境保全活動の関連―CDPスコアに基づく実証分析―

スミス 理紗
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第4(2023): pp.93-109.

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要約

本稿では、各国の環境政策と企業の環境保全努力の関係について検証を行う。温室効果ガス排出量の大部分を占めるとも言われている企業活動に対して、規制を行う環境政策の数や導入国は増えているものの、依然として排出量は高止まりしている現状がある。そうした状況を危惧して、既存研究では、温室効果ガス排出量や海外直接投資のデータを活用し、環境政策が企業行動に与える影響について検討されてきたが、企業の行動決定に関わる複雑な要因を捉え切れていない点が課題として指摘できる。そこで本稿は、企業環境汚染とそれに対する認識のレベル、さらに、環境汚染を削減するための計画とその実施可能性を評価したデータを用いることで、企業行動の複雑な決定要因を捉えた分析を試みた。具体的には、2016年から2020年までの企業に対する質問書の回答を使用して換算された、CDP (Carbon Disclosure Project) の気候変動パフォーマンススコアの国別・企業別のパネルデータを構築した上、パネルデータ分析を行った。分析結果からは、市場型政策と非市場型政策の厳格化は企業の環境保全活動を促す一方で、技術支援政策は企業の保全活動を減少させる効果が明らかになった。また、短期的には、非市場型政策の方が市場型政策よりも企業の環境保全活動を促す効果が大きいこと、移動性の高い企業は規制の緩い国に逃避する可能性が高いことが分析結果から示唆された。こうした分析を踏まえると、エネルギー価格を引き下げない政策や、国内外の生産者の競争条件を平準化する国境炭素調整政策が有効であると考えられる。