インクルーシブ教育が若年層の向社会的意識に与える影響―ヨーロッパの国際比較調査のマルチレベル分析―
深見 花れん
『築山宏樹研究会三田祭論文集』 第4巻(2023): pp.239-255.
要約
インクルーシブ教育は、全ての人が排除されることなく平等に学ぶことを目的とした制度であるが、障害を持つ子どもの教育ニーズの多様化やそれに対応した環境整備の遅れなどという問題から、批判的な見方も存在する。既存の研究においては、インクルーシブ教育の効果を実証的に分析したものは少なく、特に、インクルーシブ教育を実際に受けた生徒に対してどのような影響があるか研究されたものは少ない。そこで、本稿では、「European Agency Statistics on Inclusive Education」と「Flash Eurobarometer」のデータを用いてマルチレベル分析を行い、ヨーロッパ15カ国において、インクルーシブ教育が若年層の向社会的意識にどのような影響を与えているのかという観点から、インクルーシブ教育の効果を検証した。分析の結果、インクルーシブ教育が向社会的意識に正の影響を与えるという明確な根拠は得られなかったが、消極的な影響を与えるとも言えない結果となった。少なくとも、インクルーシブ教育という制度は障害を持つ子ども、持たない子どもの発達どちらにも好影響をもたらすという知見が多く存在するため、向社会的意識という一側面においては、社会全体への広範な影響の懸念なく、今後制度移行の積極的な促進が可能であると考えられる。