国土強靭化予算は利益誘導されているか―社会資本整備総合交付金の事例から―

平山 安那
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第4(2023): pp.51-62.

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要約

政府は大規模な自然災害への備えとして国土強靭化基本計画を閣議決定し、国土全体の強靭化を推進している。中でも、防災・安全交付金は、当該計画に基づき支援が実施される交付金や補助金において最も規模の大きいものである。これまでに政治家による補助金の地域間配分と選挙との関係についての研究は多く蓄積されているが、防災を目的とする補助金についての研究は乏しい。そこで、本稿は、2013年から2021年までの防災・安全交付金を含む社会資本整備総合交付金の市区町村別パネルデータを構築し、同交付金の配分においても、他の補助金や公共投資と同じく自民党議員による政治的裁量が認められるかを検証した。分析結果からは、国政選挙で選出される自民党議員が多い選挙区の市区町村ほど、配分される社会資本整備総合交付金が増加すること、特に、衆議院の自民党議員数が与える影響が大きいということが明らかになった。加えて、同交付金は自然災害による被害額や地域の脆弱性に依拠せず配分されていることが示唆された。この結果は、地域の安全確保、防災を目的の一つとする社会資本整備総合交付金も、自民党議員による利益誘導の手段となっている可能性を示唆するものであり、交付金の不適切な配分はかえって自然災害による危険を招く恐れがあるため、地域の需要を正しく評価し、反映させる制度が求められる。