アントレプレナーシップエコシステムが起業活動に与える影響 ―GEMデータに基づく実証分析―

山本 優一郎
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第3(2022): pp.107-121.

論文ファイルへアクセス (PDF)

要約

日本の起業活動は、他の先進国と比べて低迷しており、長きにわたる経済停滞の原因の一つとされてきた。既存研究では、アントレプレナーシップの要因について、起業家個人の特性に注目したミクロレベルの分析と、国家環境などの違いに注目したマクロレベルの分析とが別個に行われてきたが、近年では起業家を取り巻く環境が多様化・複雑化しており、そのような要因群を包括的に捉える必要性を指摘する議論も現れている。本稿は、起業活動の要因群を、起業家個人に関わるミクロ条件と、国家環境に関わるマクロ条件とに整理して、それらの相互作用が起業活動を促進するというアントレプレナーシップエコシステムの働きに注目する。このような理論的枠組みの下、Global Entrepreneurship Monitorから起業活動状況に関わる国別パネルデータを構築して、エコシステムがアントレプレナーシップに与える影響を検証した。分析結果からは、第一に経済発展段階によって起業活動を促す要因は異なること、第二に、起業に対するリスク評価が低く、起業のためのスキルや知識を有すると自負する人が多いミクロ的条件が整っている国ほど、アントレプレナーシップ政策・教育などのマクロ条件が起業活動に与える影響が強まることが明らかになった。起業活動を促進するためには低リスク評価性などミクロ的条件の環境整備を進める必要がある。低リスク評価性を高めるためには、幼少期から青年期にかけて困難克服や努力達成の経験を積ませ教育プログラムが有効な施策となりうる。