副業認可が企業における人材の定着率に与える影響

吉田 正吾
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第4(2023): pp.173-185.

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要約

多様性やワークライフバランスが重視される現代社会において、本業以外で収入や経験を得ることができる副業は今後の広がりが期待される。しかし、その有用性について企業側の視点から計量的に検証した事例は少ない。そこで本稿は、2017・2019・2021・2023の4ヵ年において、「CSR企業総覧 (雇用・人材活用編)」を用いて企業別の副業認可の状況のパネルデータを構築し、人材の流出防止という観点から副業導入の効果を検証した。また、背後にあるメカニズムを検証するにあたっては、2014年から2021年までの「日本家計パネル調査 (JHPS/KHPS)」を利用して、個人単位での副業状況と本業の満足度、および就業継続状況の関連を調査した。分析結果からは、副業制度の導入が人材流出の防止に寄与していないこと、また副業の実施は本業への満足度を高める一方で、むしろ転職を促す傾向があることが明らかになった。この結果からは、企業が副業を認めることで、社員は労働環境に充足感を得るが、副業の経験が労働流動性の向上に有用な側面を持つため、両者の効果が相殺されて人材の定着には繋がらないことが考えられる。そのため、労働流動性が高まると人材確保が困難になる中小企業では、副業を認める利点が小さく、副業制度が広まらない可能性がある。