地方鉄道の経営効率化の要因分析―自治体間の合意形成の観点から―

宮川 大輝
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第4(2023): pp.19-33.

論文ファイルへアクセス (PDF)

要約

地方公共交通は、地方部での人口減少や自家用車依存の進行により、利用者が大幅に減少し、全国のほとんどの事業者が赤字を計上している。そして、減便や設備の縮小によって利便性が低下し、より一層の利用者の減少を招く負のスパイラルに陥っている。一方で、自家用車を利用することができない高齢者など、交通弱者は増加しており、地域の足として公共交通の重要性は高まっている。そこで本稿では、地方公共交通のうち地方鉄道に着目し、1990年度から2019年度までの「鉄道統計年報」と「鉄道要覧」を活用することで、地方鉄道の経営効率性を阻害する要因を、自治体と鉄道事業者との関連に注目して検証した。分析結果からは、鉄道事業者の主要株主に占める自治体数の増加が、鉄道事業および事業全体の営業損益の悪化を招いていることが明らかになった。この背景としては、自治体数の増加が自治体間での補助金負担などの合意形成を困難とし、運賃の値下げといった経営改革を阻害することで、利用者の減少を招いていることが示唆された。したがって、地方鉄道には、自治体間の合意形成や政策に左右されることのない、自主的かつ柔軟な経営が望まれる。その実現の方策の一つとしては、「上下分離方式」による所有と運行の分離などが挙げられる。