若年有権者はなぜ自民党を支持するのか? ―イデオロギー認知の一貫性の低下と重視争点の観点から―

吉田 百花
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第3(2022): pp.123-139.

論文ファイルへアクセス (PDF)

要約

近年、若年有権者においてイデオロギーと政党支持の一貫性が失われているという議論が多く見られる。すなわち、ジェンダーやマイノリティの問題に代表される社会的価値の争点に関してはリベラル・左派的な態度をとるにもかかわらず、保守・右派政党とされる自民党を支持する若者が多いという指摘である。しかしながら、既存研究は、若年層の保守化や非一貫的な政党支持を示唆することにとどまっており、若年層の自己のイデオロギー認知と支持政党選択の具体的な関連性の指摘には至っていない。そこで、本稿では、「東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同調査」有権者調査の2017年データを用いて、若年層の争点態度と自己のイデオロギー認知及び支持政党との関連性を分析し、若年有権者の自民党支持のメカニズムを検証した。分析の結果、若年有権者は、安全保障強化に賛成するほど自己を右派と認識すること、安全保障強化と小さな政府に賛成するほど自民党を支持することが明らかになった。つまり、若年有権者は、従来指摘されてきたような、争点態度や左右イデオロギーに依拠しない政治理解や政党支持を行っているとまでは言えず、特定の争点に基づく合理的な政治参加を行っている部分がある。一方で、社会的価値の争点は野党が自民党と対立する政策提案を行っている領域であるが、若年層には重視争点と捉えられていない。社会的価値の争点を強調することは、左派政党が若年層の支持を動員する鍵になるかもしれない。