民主主義はなぜ性的少数者を保護しないのか? ―民主主義と寛容性の交互作用の観点から―

加藤 蒼貴
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第3(2022): pp.167-178.

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要約

現在、性的少数者の権利保護への関心が高まっており、そのような権利保護の要因についての研究が進んでいる。しかし、既存研究では、一部の地域に限定した研究が多く、世界規模の研究は少ない。また、民主主義か否かと性的少数者の権利保護との間には関連がないという知見が得られているが、その理由は追及されていない。そこで、本稿では、2017年の性的少数者に対する法的保護状況のデータセットを構築した上で、民主主義指標と、性的少数者に対する寛容度の指標との交互作用項を用いて、民主主義が性的少数者の法的保護に与える影響のメカニズムを検証した。分析結果からは性的少数者への寛容性が高い地域では民主主義の国ほど性的少数者の権利保護が拡充していくが、性的少数者への寛容性が低い地域では、民主主義は権威主義国と同程度に性的少数者の権利保護に消極的になることが明らかとなった。性的少数者の法的保護の拡充の上で、性的少数者への寛容性が高い国では、民主化を進めることが重要であるが、性的少数者への寛容性が低い国では、性的少数者への偏見を是正するとともに、国際的な圧力によって権利保護を訴えていくことが重要であると考えられる。