生徒の幸福度を高める教育制度の国際比較検討 ―PISAの生徒質問調査を用いた実証分析―

古田 明日香
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第3(2022): pp.37-54.

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要約

本人の環境と教育の問題は、主に教育達成や職業選択との関連から議論が行われているが、精神的な幸福度とも関連があると考えることができる。これまで幸福度の国家間格差は文化や慣習によって説明されてきたため、本稿では教育制度が幸福度に与える影響を検証する。PISAの生徒質問調査の国際比較データを用いて、幸福を構成する要素となる指標を7つ作成し、それぞれについて教育制度との相関をマルチレベル分析によって検討する。その結果、競争的な制度を有する自由主義モデルと受験競争モデルは、有意に幸福度の指標に対して負の影響を持つことが明らかとなった。また、家庭環境との関連では、自由主義モデルでSES間の幸福度格差が大きいこと、受験競争モデルではSESが生活満足度に与える正の効果が統計的に有意でなくなることが示された。自由主義モデルでは、能力別のクラス編成が、SESの影響を拡大させる可能性があると考えられる。また、受験競争モデルにおける学力テストによる選抜は一見公平に思われるが、高い社会階層の家庭の子どもは高い教育期待を持たれて受験競争を戦うことを強いられるために、低い社会階層の家庭の子どもとは別種の苦しみを感じている可能性が示唆される。