動物愛護施策が犬・猫の処遇に与える影響 ―動物愛護管理行政事務提要に基づく実証分析―

齋藤 陶子
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第3(2022): pp.237-250.

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要約

日本国内は、動物愛護管理法の改正や各自治体の取り組みなどにより、犬や猫の飼育放棄や殺処分の数は減少傾向にあるが、依然として動物愛護先進国である欧州諸国には遅れをとっている。しかし、国内の既存研究では、各自治体の施策の効果を実証的に明らかにしたものは少ない。そこで、本稿は、2010・2015・2020年の環境省の「動物愛護管理行政事務提要」から作成した都道府県別のパネルデータを用いて、殺処分や飼育放棄問題のメカニズムを理論的に整理し、行政の施策が犬・猫の処遇に与える影響について検証を行った。分析結果からは、保護施設の管理体制や動物愛護に関する条例・規則などの法整備が、犬・猫の処遇の改善につながることが明らかになった。施設では、長期的な保管日数を設けることで収容されている犬や猫の譲渡機会を増やすことが望ましい。また、引き取り手数料や不妊・去勢手術助成金は犬の飼育放棄の要因を排除し、地域猫活動やTNRに関する法制度は猫の個体数抑制に効果があるため、引き続き取り組むべき施策である。ただし、睾丸を切除するTNRよりも精管を切除するTVHRの方が野良猫の個体数抑制に効果があるとの研究結果が報告されているため、海外の施策を積極的に導入する姿勢も必要だと考えられる。