住居の空間的制約が出生行動に与える影響―日本家計パネル調査に基づく長期的分析―

大森 瑞希
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第4(2023): pp.159-171.

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要約

日本において少子化は最重要課題の一つである。少子化の要因として、海外を中心に研究が盛んなものとして住居の空間的制約が挙げられる。他国を対象に住居の空間的制約と居住者の出生行動の関係を検証した先行研究では、育児に適した住環境が居住者の出生確率を上昇させること、また出産を志向するカップルがより良い育児環境を求め出産のタイミングで転居を行うことが明らかにされた。日本においても同様の知見を示した先行研究は存在するが、いずれも分析対象が単年度のデータに留まっている。そのため本稿では、日本家計パネル調査の17年度分のパネルデータを用いて延床面積と敷地面積、転居増改築のタイミングが居住者の出生行動にどのように影響しているかをそれぞれ分析した。結果からは、第一に住居の居住スペースの広さが居住者の出生行動に有意な正の影響を与えていること、第二に転居増改築のタイミングと出産のタイミングが密接に関連していることが示された。このことから育児環境にアクセスが困難な場合に出産を諦める世帯が存在することが示唆され、日本における少子化対策としての住居政策の必要性が示された。