生産セクターの開発援助と貧困削減 ―国家の産業構造に条件付けられた効果―

戸松 明日香
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第3(2022): pp.95-105.

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要約

本稿では、生産セクターの開発援助が貧困削減に与える影響について、国家の産業構造の条件付き効果に着目して検証を行う。世界では、開発途上国を中心に深刻な飢餓が問題となっており、飢餓撲滅には農林水産業を含む生産セクターへの開発援助が不可欠である。しかし、生産セクターの開発援助額は全体の6%程度にとどまっている。長年の援助が行われていることにもかかわらず世界の飢餓人口は増加の一途をたどっており、現状行われている開発援助を見直す必要があると考えられる。既存研究では、開発援助の効果を産業構造の側面から論じたものは少ない。そこで、本稿では92か国19年分のパネルデータを用いて、生産セクターへの開発援助が貧困削減に与える影響を固定効果モデルに基づき推定した。分析からは、第一次産業就業者比率の高い国ほど、生産セクターの開発援助額が貧困率に与える影響は大きいことが分かった。したがって、工業化の進んでいない開発途上国においては、生産セクターへの積極的な援助が必要であることが示唆される。