法人税率の引き下げが産業別労働分配率に与える影響―VAR構造モデルによる実証分析―

石川 大翔
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第5(2024): pp.81-96.

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要約

1980年代のグローバル化に伴い、多国籍企業の事業拠点誘致を目的として、世界的に法人税減税が行われた。法人税減税には企業の投資拡大を促す効果が期待される一方、労働分配率の低下をもたらすなどの問題が指摘されている。しかし、現状、法人税と労働分配率の関連を実証的に論じた研究は少なく、法人税減税による労働分配率の低下効果は地域・産業を横断的する普遍性があるのか定かではない。そこで、本稿は、日本の1973年から2021年までの法人税実効税率と6つの産業の労働分配率の時系列データを構築した上で、日本の法人税減税に起因する労働分配率の低下効果の有無とそのメカニズムを検証した。分析結果からは、日本においても一部産業で法人税減税が労働分配率を低下させる効果が認められた。一方、既存研究が指摘する法人税減税による資本集約的企業の台頭を介した労働分配率低下のメカニズムの説明は必ずしも日本の事例には妥当しないことが示唆された。法人税減税による労働分配率の低下が認められる産業については、そのメカニズムを特定し、実質賃金を高めるための産業特定的な施策などの対策を取る必要があると考えられる。