観光地の季節間需要分散の要因と影響―客室稼働率の分散の観点からー

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築山宏樹研究会三田祭論文集』 第4(2023): pp.141-157.

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要約

観光業は、その経済効果や地域外との交流促進機能を持つ産業として、日本政府の重要な政策分野となっており、近年の訪日観光客増加や円安の傾向は適切な観光資源開発による成長と地方創生への期待を高めている。そのような中で、近年、観光地における「通年化」が注目されている。特に、観光地の宿泊業では、季節間の客室需要の不安定さが事業の安定性を低下させるという見方があり、観光業の生産性の向上や持続的な成長を阻害している可能性がある。そこで、本稿は「宿泊旅行統計調査」に基づき客室稼働率の年間分散を、観光地の通年化の指標として採用することで、各都道府県の客室の季節間の需要分散要因と、その宿泊業の経営状況への影響を検証した。分析結果からは、季節間需要分散が宿泊業・飲食サービス業の事業者数や雇用者に与える影響は見られなかったものの、客室稼働率平均が高い地域ほど事業者数・雇用者数が増加すること、訪日外国人の平均滞在期間が長く、観光資源に占める自然・歴史文化資源の割合が大きい都道府県ほど、客室稼働率の分散が小さくなることが明らかになった。開発の応用が可能な自然資源や四季の影響を受けづらい歴史文化資源は観光地の通年化を促進する側面があり、サステナブルツーリズムが評価される中でこれらの資源を活かした入込数の量より滞在期間などの質を重視する集客が通年化のために重要であると考えられる。