企業のWLB制度が女性の就業継続に与える影響―日本家計パネル調査に基づく実証分析―
小栗 実紗
『築山宏樹研究会三田祭論文集』 第5巻(2024): pp.237-250.
要約
男女の就業率の差は日本に特徴的な課題であり、その解決策の一つとしてWLB 制度の導入が指摘されている。しかし、既存研究ではWLB制度が女性社員比率に対して正の相関があることが明らかになっている一方、企業データの性質上の限界によりその中間的なメカニズムが明らかになっていない。本稿では、2010度年から2022年度まで全13回の「日本家計パネル調査 (JHPS/KHPS) 」から、WLB制度の実施状況と、女性の前年度からの就業継続状況の変化を対照させたパネルデータを構築し、離散時間ロジットモデルによる競合リスクモデルを用いて、WLB制度が女性就業者の離転職にどのような影響を与えるかを検証した。分析結果として、まずWLB制度全体の充実と一日単位未満での休暇取得制度が女性の転職を有意に防ぐことが分かった。次に、在宅勤務制度と正社員への転換制度は離職を有意に防ぐことが分かった。転職と離職とに対してでは効果のあるWLB制度が異なるため、企業は目的や必要性に応じてWLB制度を使い分けることが、女性の就業継続のために重要であると考えられる。