外国人の犯罪報道が対外意識に与える影響―国籍別犯罪報道の時系列分析―

名古屋 佳那
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第5(2024): pp.65-80.

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要約

近年日本では、少子高齢化による人手不足の打開策として外国人労働者の受け入れが急速に進んでいる。しかし、未だ外国人住民に対する人々の不信感は根強く、特定の民族を対象とした排斥運動が起きることもしばしばある。こうした外国人への偏見や排外意識を助長する要因はさまざまに仮説が検証されてきたが、その有力な説の一つとしてメディアの影響が挙げられる。しかし、既存研究では日本人の外国に対する親近感などを指す対外意識の長期的なマクロの変動を捉えた上で、そのような変動に対するメディアの影響を検討した実証研究は少ない。そこで本稿は、1985年から2019年までの内閣府による「外交に関する世論調査」と朝日新聞、読売新聞、毎日新聞のオンライン記事データを用いて外国籍の容疑者の犯罪報道がその国に対する対外意識に与える影響を検証した。分析の結果、分析対象国であるアメリカ・中国・韓国・ロシアのいずれの国においても犯罪報道による有意な影響が見られなかった。この背景としては、世論のマクロな対外意識に対しては外交問題の影響が大きく、犯罪報道の集積的な影響は限定されることが考えられる。