自治体業務のデジタル化の要因とその職員への影響 ―地方自治情報管理概要に基づく実証分析―

加藤 拓海
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第3(2022): pp.195-210.

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要約

近年、業務の電子化を始めとしたデジタル・トランスフォーメーション (DX) が官民ともに推進されている。しかし、行政の取り組みに関してその要因や効果を実証した研究は限られている。そこで本稿では、各自治体のデジタル化への取り組みが、近隣自治体におけるデジタル化の推進状況の影響を受けているのか、また、取り組み実施によって職員の業務への満足度が向上し、結果として離職率が低下しうるのかの二点を、総務省の「地方自治情報管理概要」からパネルデータを作成した上でそれぞれ分析した。その結果、制度の策定状況やシステムの利用状況は同都道府県の他の自治体の推進状況と正の関係にあることが明らかとなった。また、ICTの研修の取り組みが進む自治体ほど離職率が高まる傾向にあるという、仮説とは逆の分析結果が得られた。このことから、自治体は近隣自治体の制度やシステムの利用状況を、自組織における取組推進のための参考にしていること、また、ICTの研修の取り組みは業務への満足度に影響を与える一要素であることが示唆される。自治体は、研修が職員の業務負担や業務満足度を向上させるべく、自組織の現状を踏まえた適切な内容で行われるように制度を運用していく必要があると言える。