ICTの活用が学力格差に与える影響―分位点回帰モデルによる実証分析―

井上 海揮
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第4(2023): pp.219-237.

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要約

本稿では、学校でのICTの活用が生徒の学力や学力格差にどのような影響をもたらすのかについて考察する。既存の研究では、ICTの活用が生徒の学力を向上させることを主張する研究もあるが、結果はまちまちで、学力格差への影響については一貫した結果がない。そこで、本稿では学校単位で集計したPISAデータを利用して、生徒と教員のICT利用が、生徒の学力及び学力格差に与える効果を分析した。学力への影響ではデータの階層性を考慮して階層線形モデルを、学力格差への影響では、格差の縮小と拡大への寄与を捉えるために固定効果分位点回帰モデルを適用した。分析の結果、生徒のICT利用率は学力と負の関連を持つ一方、教員のICT利用率は学力向上に寄与するという知見が得られた。しかし、学力格差との関係では、教員のICT利用率は特に上位層の生徒の学力を向上させる傾向が見られ、むしろ学力格差の拡大の一因となっている可能性が示唆された。ICTの教育利用では、教科ごとの有効性の違いに留意しつつ、学力下位層の生徒の取り込みが課題になると言える。