出生コーホートが特定年代向け政策への態度に与える影響―JGSS (日本版総合的社会調査) に基づく実証分析―
福島 瑞月
『築山宏樹研究会三田祭論文集』 第5巻(2024): pp.45-64.
要約
高齢化による人口構成の変化は政治における高齢者の発言力を強める可能性があり、結果的に高齢者優遇の政策が増加することへの懸念や、それに起因した世代間の対立が問題となっている。高齢化が政策選好に与える影響を実証的に検討した研究は多いが、特に欧米諸国の検証では、高齢化と政策選好の相関は、加齢によるものではなく出生コーホートの違いによる見かけ上のものだという指摘が存在する。しかし、国内の研究では、その大半が年齢と政策選好の関連を指摘するにとどまっており、政策選好の規定要因としてのコーホート効果に関する検討はほとんどなされていない。そこで、本稿は、2000年から2010年までの「JGSS (日本版総合的社会調査)」を利用して、若年者に便益の大きい教育、雇用・失業対策分野と、高齢者に便益の大きい社会保障・年金分野に対する政府支出に対する選好における年齢効果とコーホート効果の影響を検証した。分析結果からは、どの分野における評価においても年齢効果は見られず、雇用・失業対策分野においては1940~1950年代生まれの世代におけるコーホート効果が存在することが明らかになった。この結果からは、日本における高齢者と若年者の間の政策対立は年齢によるものではなく、特定の世代間での対立であることが示唆された。世代間の政策対立を緩和するためには、出生コーホートから生じる政策選好の違いを理解して、そのような特定の出生年代の選好を充足させる政策の展開が重要であると考えられる。