拠点集中型コンパクトシティが地価に与える影響
栗山 慧三
『築山宏樹研究会三田祭論文集』 第5巻(2024): pp.179-194.
要約
本稿は、富山県富山市を事例に拠点集中型コンパクトシティ政策が地価に与える影響を検証したものである。富山市は2005年の市町村合併を経て、2009年に旧自治体の複数拠点を考慮した拠点集中型のコンパクトシティ政策を策定した。コンパクトシティ政策が都市に与えた影響については多くの研究が行われているが、このような拠点集中型コンパクトシティ政策が異なる拠点に与える文脈依存的な影響は十分に指摘されていない。本稿では、富山市と他の中核市の地価データを対照させた上で、一般合成コントロール法による推定を行い、拠点設定が地価に与える効果の地域間の異質性を明らかにした。分析結果からは、旧富山市の拠点地域では政策開始後も地価上昇の効果は確認されず、拠点指定の効果が十分発揮されていないことが示唆された。一方、合併で富山市に加わった地域では、拠点までの距離にかかわらず地価が上昇する傾向が見られた。この結果は、公共交通の整備や補助金政策が旧富山市以外の地域に恩恵をもたらすものの、都市の中心部に人口や経済活動を集約するという施策本来の目的が達成されていない可能性を示している。本稿は、過剰な拠点の設定が都市の拡散を招く可能性があるという先行研究の指摘と整合的であり、コンパクトシティ政策において拠点の数を適切に絞り込む必要性を実証的に浮き彫りにするものである。