保育所のアクセシビリティが待機児童の発生に与える影響 ―GISデータに基づく空間的ミスマッチの指標を用いて―

宮内 聡士
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第3(2022): pp.1-11.

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要約

2010年代以降、保育所の増設が進んでいるが、待機児童問題が解決に至ったわけではない。近年、保育所の量的拡充だけでなく、その最適立地が待機児童問題に影響すると考える研究群が現れている。河端 (2017) は、居住地と保育所の位置関係を考慮したアクセシビリティ指標を算出し、保育所と居住地の近接性と待機児童数の間に負の相関があることを示しているが、東京都23区の単年度のデータで二変数間の関連を確認することに留まり、市区町村間の異質性や時系列上の変化は考慮されていない。そこで本稿は、東京都内の市区町村別パネルデータを構築した上で、保育所のアクセシビリティが待機児童の発生に与える影響を検証した。その結果、保育所のアクセシビリティが改善した地域では、待機児童の発生が抑制されることが明らかになった。特に、保育所定員の拡充が進んだ2017年以降で見ても、保育所定員率よりも保育所のアクセシビリティの指標の影響が待機児童率の減少に頑健に見られた。保育所の利用者は保育所の近接性に制約される側面があるため、保育所の増設にあたっては、空間的な需給のミスマッチを改善する最適な立地を考慮することが重要であると考えられる。