重要伝統的建造物群保存地区が都市再生に与える影響―保存地区2事例の人流・地価データに基づく実証分析―

田中 青空
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第5(2024): pp.211-224.

論文ファイルへアクセス (PDF)

要約

重要伝統的建造物群保存地区制度は、城下町や宿場町、門前町などの歴史的集落や町並みを保存することを目的に創設されたもので、伝統的建造物の保全や地域活性化に一定の効果をもたらしている一方、過疎化や人口減少、高齢化といった現代的な地域課題との両立が求められている。しかし、既存研究においては保存地区制度が地域に与える影響を統計データによって実証的に検討したものは少なく、保存地区への選定が具体的にどのような効果をもたらすかについては不明な点が多い。そこで本稿では、2019年12月に保存地区として指定された兵庫県たつの市・龍野地区と鹿児島県南さつま市・加世田麓地区を対象とし、流動人口および定点地価データに基づくパネルデータを構築した上で、差分の差分法に基づくイベントスタディモデルおよび一般化合成コントロール法を用いて、保存地区選定の影響を検証した。分析の結果、保存地区への選定が短期的には流動人口の増加に寄与する一方で、長期的にはその効果が持続しないことが明らかとなった。また、保存地区への選定は地価に影響を及ぼさないことが明らかとなった。これらの結果から、自治体や地域団体といった官民が連携し、保存地区の価値を継続的に発信する体制を整備することが、長期的な地域活性化や観光地化の推進に不可欠であることが示唆される。