柔軟な勤務制度が出生行動に与える影響―日本家計パネル調査に基づく実証分析―

寺田 陽奈乃
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第5(2024): pp.225-236.

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要約

本稿は、柔軟な勤務制度が家庭の出生行動に与える影響について、既存のパネル調査を用いて分析したものである。先行研究では、育児休業制度が女性の勤務先に設置されている場合、出生率や出生意欲に正の影響があるという実証結果が明らかになっている。しかし、その影響は限定的であり、また育児休業制度以外の勤務制度と出生行動との関連性や、配偶者である夫の勤務先の柔軟な勤務制度の効果に注目した実証研究はほとんど存在しない。そこで本稿では、「日本家計パネル調査 (JHPS/KHPS)」の14年分のパネルデータを作成した上で、柔軟な勤務制度の存在が出生行動に与える影響について固定効果モデルを用いて分析した。その結果、夫の勤務先に短時間勤務制度、半日・時間単位休暇制度、長期リフレッシュ休暇制度が設置されている場合、出生確率が上昇することが明らかになった。すなわち、出生行動に与える効果は妻よりも夫の勤務先の勤務制度の方が大きい可能性が示唆された。出産する女性だけでなく、男性も配偶者の出産にあたって柔軟な勤務形態を選択できるような施策の推進が重要であると考えられる。