無党派層における投票先決定要因の分析―党派性ヒューリスティクスの観点から―

上妻 加奈
築山宏樹研究会三田祭論文集』 第2(2021): pp.43-54.

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要約

本稿では、政党支持の有無が有権者の投票先決定要因のあり方に影響をもたらすかについて検討する。無党派層の増加は、日本をはじめ世界中で問題視されている。党派性は、有権者の政治的判断にとって、コストをかけずに情報収集を可能にするヒューリスティクスであるが、党派性を持たない無党派層が、どの要因を考慮し投票先を決定しているのかを国内の事例から検証した研究は多くない。本稿では、2017年に行われた、第48回衆議院議員総選挙における東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同調査をもとに、政党支持の投票先決定要因への影響分析を試みた。分析結果からは、無党派層では争点態度が野党への投票に及ぼす影響が大きいこと、また、政治知識の高い現代的無党派層に限っては業績評価が与党への投票に繋がりやすいことが明らかになった。これらの結果は、現代の日本においては、党派性が情報のショートカットとして有効に機能している可能性を否定するものではないものの、部分的にはむしろ争点態度や業績評価に基づく投票選択を阻害するような傾向を持つことを示唆するものである。